パプリカ/筒井康隆
★★★★☆
筒井康隆のことをなめていたと思った。
こんなん読まされたら、彼を天才と認めるしかない。
次々と展開する夢世界のイメージ、それを違和感なくストーリーとつなげていく力。
鮮やかな夢のイメージがするすると脳内に再現できてしまうのは筒井先生の力量ゆえだろう。
SFチックな小道具についても、それほど複雑なものではなかった。
SF小説では細かい設定が多くてめんどくさいものが多いのではないかと思っていたが、「パプリカ」は全然そんなことなかった。
むしろ話の筋としてはとてもシンプルであった。
技術を悪用しようとする狂者がいて、それを主人公が倒すというただそれだけの話である。
それゆえに、読むのがめんどくさくなるようなことはなかった。
ちょっと肌に合わないなあと思ったのは、登場人物間での視点移動が多かったところか。誰視点なのかを多少考えないと途端に文章が読みにくくなるところがあった。
唐突に視点が変わるのでそこだけは少し読みにくかった。
それと、登場人物として活躍するのがどれも中年のおっさんだったから、若者の私としては若干物足りなさはあった笑
筒井先生の自己投射なんだろうなあ。
しかしそんな短所はどうでもよくなるぐらい素晴らしい小説だった。
映画5本分ぐらいのボリュームはあったし、これは映画では表現しきれないだろうなと感じた。
しかも映像では表現しきれない精神世界をこれだけ鮮やかに描ききっていて、文学的価値も極めて高いのではないかと思った。
映像では絶対再現不可能な世界の描写にこそ小説の価値があると考えている。
それをこれだけ読者にぶつけられる筒井先生は間違いなく天才なのだろう。
豊富なイメージと巧みな文章表現はどこから出てくるのか…
とりあえず筒井作品も読みあさろうと思う。