風の歌を聴け/村上春樹
★★★☆☆
概要:
一九七〇年の夏、海辺の街に帰省した<僕>は、友人の<鼠>とビールを飲み、介抱した女の子と親しくなって、退屈な時を送る。二人それぞれの愛の屈託をさりげなく受けとめてやるうちに、<僕>の夏はものうく、ほろ苦く過ぎさっていく。
青春の一片を乾いた軽快なタッチで捉えた出色のデビュー作。群像新人賞受賞。
感想:
「職業としての小説家」を読んでから、村上春樹の作品を読もうと決めて、宣言通り読んだ。
文学的にこれがどうこういうつもりはないし、言う能力も持ち合わせていないので率直な感想を。
軽快に読み進められる文章だった。
軽い。
爽やかとも言える。
読みながら、止まってしまうところは2、3度ぐらいだった。
小洒落た音楽を聴くかのように読めた。
ひたすら「スカしたやつだなあ」という印象。
かっこつけてんのかっていう。
平坦。
そこがこの作品の魅力であり、魔力であった。
これを読んでから、自分の行動を「村上春樹っぽい文章」で描写すると、なんでも正当化されるような気がした。
なんでもない街の風景だって、つまらない学校生活だって、「村上春樹っぽい文章」にしてしまえば、自分はとても洒落た人生を送っているのではないかという気になる。
「世界が輝いて見えた」だとか、そんなつまらないことではない。
ファンタジーもSFもない普通の世界だって、見方によっては小洒落た世界になる。
輝くだとかそんなたいそうなものではない。
爽やかな感傷をもって世界を眺めることができる。
そんな感じ。
「職業としての小説家」で村上春樹本人が述べていた通り、これはたしかに力の2、3割しか出していないのだろうなあ。
村上春樹の話はなんだか「全然ダメ人間でも、見方によってはとても洒落た人生を送っているのだから、いいじゃん」という無責任さのようなものを感じる。
それはこの作者の持ち味で、売りで、ダメ人間の私としてもとても惹かれるところがある。
けれども、それを大マジに受け取ってしまうと本当にダメになってしまいそうなので、あまりのめり込まないほうがいいなあ。
鼠三部作といって、これに連なる話があと二つあるらしいから読んでみよう。
することもない涼しい夜にぼんやりとウィスキーでも飲みながら読むのにちょうどいい話だなあと思った。