爆発的進化論/更科功
★★★☆☆
概要:
生命誕生から約40年。変化は常に一定ではなく、爆発的な進歩を遂げる奇跡的な瞬間が存在した。
眼の誕生、骨の発明、あごの獲得、脚の転換、脳の巨大化……。
数多のターニングポイントを経て、ゾウリムシのような生物は、やがてヒトへと進化を遂げた。私たちの身体に残る「進化の跡」を探りながら、従来の進化論を次々と覆す、目からウロコの最新生物学講座!
感想:
「最新生物学講座!」って概要に書いてた……
というのも、読んでいてまるで大学の講義を受けている気分になったのである。
この本、大学の講義を優しくした噛み砕いたような内容だった。
話はとてもわかりやすい。
巧みに比喩を使って生物学の専門的なところをわかりやすく説明してくれる。
第一章は生物と無生物を分ける「膜」の話から始まって、口、骨、眼、肺、脚、羽、脳、性とだんだんと複雑になっていく生物の仕組みを説明してくれた。
最終章は「命」という題で生命は物質から作れるかを考察する。
いくつか印象に残ったところがあるので、順に並べてみる。
まず、カンブリア爆発について。
カンブリア第二期から第三紀にかけての約千五百万年間(約五億二千九百万年前から約五億千百万年前)に、生物が爆発的に進化した。
このことを「カンブリア爆発」と呼ぶ。
この時期に一斉に生物は骨格を進化させたのだという。
だから化石もこの時期以降のもの見つかりやすいそうだ。
また、「ボディプラン」という動物の体の基本的な構造がこの時期に出来上がった。
このような進化史上の大事件がなぜ起きたかというと、本書では「動物を食べる動物が現れた」ことがその理由だと述べている。
ある日、たった1匹の動物が、他の動物を捕食した。
それをきっかけに、食べるものはより食べることに適するように進化し、食べられるものはより食べられないように進化する。
その軍拡競争が爆発的に生じて、あっという間に世界中で進化が進んだらしい。
この話はとても示唆的な気がする。
爆発的な成長は、食うか食われるかの競争から生まれるのだ。
しかも、きっかけはたった1匹の他の動物を食べた動物。
その瞬間から世界の様相は一変してしまったことだろう。
第二に、「オッカムのかみそり」について。
これは本論とはあまり関係がないのだけれども、「仮説がいくつかあるときには、なるべく単純な仮説を選ぶ」ということらしい。
知らなかった……
「科学における原則とされる」と書いてあるので、理系の人たちにとっては常識なのだろうか(自分の浅い知識に辟易するばかりである)。
第三に、「脳」の章に出てくるチンパンジーと人間の違いについて。
よく「人類の進歩」みたいな題がついた絵で、猿→チンパンジー→ヒトとなるものを見かけるが、あれは間違いらしい。
チンパンジーとヒトは共通祖先から進化しているが、ヒトはチンパンジーから進化したものではない。枝分かれした別種とのことだ。
だから、ヒトはチンパンジーに進化しないし、チンパンジーはヒトに進化しない。
脳の容量について、ヒトは約1350cc、チンパンジーは約400cc
しかし脳が大きければ大きいほどいいというわけでもない。
脳は体重の2%の重さしかないのに20%のエネルギーを消費する。大変燃費の悪いものだそうだ。
だから、最古の人類「サヘラントロプス・チャデンシス」の脳の容量も400ccに過ぎなかった。
それが、人類が栄養を十分に取れるようになったおよそ二百五十万年前から脳が600ccとだんだん大きくなったようだという。
その時代の少し前から石器が見つかり始めたらしい。
二足歩行を始めたのが七百万年前ということだから、「人類は二足歩行を始めたから、道具を使うようになって、脳が進化した」というよりも、「道具を使って安定して栄養を供給できるようになったから、燃費の悪い脳を発達させることができた」ということらしい。
うーん、なるほど。
第四に、生命誕生の秘密について。
これは私も小さい頃からずっと疑問に思っていたことである。
というか大抵の人間が考えたことのある命題だと思う。
生命誕生はいかにしてなされたか。
それで私は今まで、「生命誕生時の地球を再現させればわかるのでは」と考えていたのだが、実際にした人がいた。知らなかった(また自分の浅学に辟易するばかり)。
しかも1952年。めっちゃ前。
実験したのはシカゴ大学の学生、スタンリー・ミラーである。
彼は「有機物が初期の地球から発生するか」を実験した。
初期の地球を再現した装置は本書に図が載っているので興味のある人は読んでほしい。
ものすごく大まかに言うと、二つのフラスコを管でつなぎ、一方のフラスコでは水(海の役)を煮沸し、それをもう一方の、メタンとアンモニアと水素と水蒸気が混じった気体を入れたフラスコに流す。
そして循環した水が一度装置の下方に溜まるようにした。
最後に、雷代わりに、混合気体の方に放電する。
すると、一週間連続放電していたところ、装置下方の溜まり部分から、アミノ酸(有機物)が検出されたのだという。
うおー!まじか!生命誕生か!!
と思っていたが、その後に初期地球の大気成分は水蒸気や二酸化炭素、そして窒素からなると考えられるようになり、その通り実験したところ、アミノ酸は発生しなかったという。
これを読んで、「いや結局違うのかよ」と若干がっかりしたものの、同様の実験が数多くなされれば、もしかしたらアミノ酸が出現するときがくるかもしれない、と思った。
実際、ミラーの実験後になってようやく、同様のアプローチで実験が行われるようになったという。
最近はどうなっているんだろう。気になる。
そのあとは、RNAワールド仮説だとか、タンパク質ワールド仮説だとか、生命誕生の秘密に迫る様々な説の検証があった。
結局のところ未だによくわかっていないみたいだ。
人類の科学がこれだけ発達しても、自然が作り出した生命の起源を再現することはできない。
とても神秘的に思えるし、好奇心もかきたてられる。
本当にそのうち、生命の起源が明らかになるときがくればいいなあ。
というわけで以上。
本書は、最新の生物学の知見を研究者が噛み砕いて説明してくれる良書であった。
ただ、思ったより「爆発的進化論」というタイトルほどのインパクトはなかったかな。
優しく説明してくれた。
あと、「1%の奇跡がヒトを作った」という副題、本文中にどこにも書いてなかった気がするが、見落としてしまったのだろうか。
理系の知識も増やさねばなあ。
追加(2016/10/18)
「オッカムの剃刀」は常識らしいです…(情報系の友だちの反応)